マネーボール前史 サンディ・アルダーソンとビル・ジェームズからビリー・ビーンへ

メジャーリーグの統計学的アプローチは、当然ながら野球人から出たものではない。
むしろ彼らは、科学的な理論を拒否し排除し黙殺した。

組織論的に、選手や監督、スカウトよりも権限が上の、GMやオーナーがマネーボール(セイバーメトリクス)を導入する意志決定をした球団のみが、それを採用した。
オークランド・アスレチックスの実績が、他球団のセンスのあるオーナーを変えていったのである。

これ以降、ビリー・ビーンを例外として、野球経験のない人たちが、GMや球団フロント幹部に成り上がっていくが、むしろその人たちを採用していくオーナーのほうがすばらしいと思う。

ゲームの勝ち負けは、現場からオフィスに、主導権が移っていくのである。

ビリー・ビーンのマネーボールへの道

ビリー・ビーンは、1997年からオークランド・アスレチックスのGM(General manager ゼネラルマネージャー)を務めている。

じつは、超高校級として騒がれ、スタンフォード大学を断って、高卒でニューヨーク・メッツに1巡目指名された大リーガーでもある。

メッツから、ミネソタ・ツインズ、デトロイト・タイガース、最後にはアスレチックスに移籍、1989年に自分の意志で現役を引退、アスレチックスのフロント入りを希望しスカウトに。

さて、元メジャーリーガーという経歴が、GMビリー・ビーンの実績につながったのか?
そして、失敗した経験が活かされたか?

選手の能力を正しく判断できる方法はないのか?
そして、従来のスカウトの評価はあてにならない。
これは、身にしみたと思われる。

余談 統計的データは近未来の予測のために

日本でも高校時代に騒がれながら、鳴かず飛ばずの選手も多い。
(マネーボールを読んで、すぐに思いついたのはジャイアンツの大田泰示である…)

ちなみに、最近の大リーグは、高卒を採らず大卒を重視しているらしい。
(統計的データで、高校時代の成績はあてにならないということかもしれない)

別の記事に書く予定のネイト・シルバーも、『シグナル&ノイズ』で、現役大リーガーの今後の成績予測だけでなく、とくにプロ入り前の選手の活躍予測ができたらと書いてあった。

メジャーリーグに限らず、ビジネスや政治や軍事などの分野にて、アメリカで統計学(ほとんどはベイズ理論)がもてはやされているのは、過去の事象の後付け解釈のためではなく、これからの予測のためである。
(ベイズ理論では、まだ1回も起きてない事象の発生確率さえ予測が可能)

サンディ・アルダーソンがマネーボールを準備

ビリー・ビーンの前のGMは、サンディ・アルダーソン。
13年間で、金満オーナー時代に世界一、ワールドシリーズは3回進出。
その後、緊縮オーナーに替わって、マネーボールが準備される。

アルダーソンがアスレチックスのGMになる前の職業は、なんと弁護士。
野球経験はなし、海兵隊で将校になっている。
(軍隊はともかく、弁護士からメジャーリーグのGMというところが、本人も凄いが、雇ったオーナーも凄い。結局、アメリカという国が凄い!?)

『マネー・ボール』から

過去の試合データを調べた結果、試合中の戦術から選手の評価方法まで、すべてを科学的にやって行くほうが有利だいう証拠が得られた。もはや、旧来の野球人の勘に頼っていてはいけない。データをもっと科学的に分析すれば、根拠のない通説に惑わされずに済む。

野球を知らない人には鬱陶しいとは思うが、統計のデータによると

  • チームの総得点とチームの平均打率は関係は薄い
  • バント、盗塁、ヒットエンドランは、的外れか自殺行為

アルダーソンGMが、みずから実践をしようとし、ビーンに引き継いだ功績は大きい。
(アスレチックスのマネーボールがなければ、他球団もセイバーメトリクスを取り入れることはなかった可能性もある)

なお、サンディ・アルダーソンは、現在ニューヨーク・メッツのGMになっている。

マネーボールを準備した小冊子

ところで、アルダーソンがつくらせた小冊子には、次のように書かれている。

  • 守備力はせいぜい試合の5%にしか影響を与えない
  • アウト数を増やす可能性が高い攻撃はどれも、懸命ではない
  • 逆に、その可能性が低い攻撃ほどよい

サンディ・アルダーソンから渡された小冊子に衝撃を受けたビリー・ビーンだが、小冊子の元になった資料は、ビル・ジェームズが書いた本であった。

ビル・ジェームズはマネーボールのセイバーメトリクスを

ビル・ジェームズの本といっても、ガリ版刷りの自費出版で、最初の読者は75人だったそうだ。

ジェームズは、野球人の守備力の評価などを問題にする。
エラーは、打球を捕りに行かなければ、ヒットになってエラーにはならない。
つまり、極端にいえば守備範囲が広い人、果敢に打球に飛びつく人に、エラーがついてまわることにもなる。

そして、野球は得点を争うゲームなので、得点は何によって導かれるか、ビル・ジェームズははじめて計算式を考えついたのである。

得点数=(安打数+四球数)×塁打数÷(打数+四球数)

よって、出塁率や長打率がクローズアップされるようになり、逆に犠打や盗塁、得点圏打率などは、得点に何らの相関関係もないことがデータで示されるようになったのである。

これがまとめられたものが、セイバーメトリクスであり、ビル・ジェームズによって命名されたのである。

なお、ビル・ジェームズは、ボストン・レッドソックスの上級コンサルタントに就任している。

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