歴史的低視聴率でもNHK大河ドラマ『平清盛』を見るべき7つの理由

平清盛は、NHK大河ドラマ史上、惨憺たる低視聴率らしい。

平清盛 低視聴率データ

とうとう、「2012年 4月16日(月) ~ 4月22日(日)」で、ドラマ部門のベストテンからも落ちている…

  • 週間高世帯視聴率番組10(最新)|ビデオリサーチ

↑からバックナンバーを見ても、なにやら情けない。

結局、登場人物(主人公)の知名度が、初回視聴率では決定的なようだ。
つまり、大衆がよく知らない人物は、視聴率が悪い。

下記は、初回20%未満の大河ドラマである。

タイトル主人公
春の坂道柳生宗矩
新・平家物語平清盛
春日局春日局
花の乱日野富子
北条時宗北条時宗
功名が辻山内一豊と妻
平清盛平清盛
  • NHK大河ドラマ|ビデオリサーチ

(詳細は、上記ページで確認を)

個人的には、大衆に支持されないものに価値を見出したいひねくれ者なので、途中打ち切りとか、方向転換とか、それさえ無ければこのままでもかまわないと思っている。

1.日本の歴史に大きく影響を与えた人物のドラマ:日本人として

平清盛は、まず貴族政治に立ち向かい、武士ながらも権力の中央に立った人である。
よって、日本の歴史では、偉大なる人物である。

また、大河ドラマならどれもありがたがって見るわけではなく、熱心に見たのは下記表のものだけである。

タイトル主人公見どころ
徳川家康徳川家康江戸幕府開祖
独眼竜政宗伊達政宗時代が違えば天下人
太平記足利尊氏室町幕府開祖
炎立つ奥州藤原氏東北の覇者
八代将軍吉宗徳川吉宗御三卿の創始
毛利元就毛利元就中国の覇者/時代が違えば毛利幕府も
北条時宗北条時宗元寇阻止
利家とまつ前田利家と妻徳川幕府設立のキーパーソン
功名が辻山内一豊と妻土佐藩の開祖
龍馬伝坂本龍馬明治維新のキーパーソン
徳川秀忠の妻戦国時代終焉のシンボル

日本人として、日本の歴史に大きく影響を与えた人物のドラマは見ておきたいものだ。

これが、『平清盛』を見るべき1つ目の理由である。

2.有名ながら詳しく知らない人物や時代:歴史マニア

本は読んでいる。
しかし、ビジュアルに映像化されると、またイメージも変わってくる。

その意味で、とくに、自分がよく知らない人物や時代を扱ったときの大河ドラマは、非常に楽しい。

  • 足利尊氏
  • 奥州藤原氏
  • 徳川吉宗
  • 北条時宗

足利尊氏は、戦前は「朝敵」の一番手。
北条氏打倒と、後醍醐天皇との対立と、室町武家政権の樹立。
(源氏のお家芸、親子兄弟や同祖との殺し合いも…)

奥州藤原氏は、中央権力から隔離された半独立王国を築いた。
八幡太郎義家の後三年の役も見どころ。

徳川吉宗は、八代目/十五代の将軍で、江戸幕府の中興の祖。
どんよりした、徳川政権に新風を。

北条時宗は、八代目/十五代の執権で、日本の大国難である元寇を阻止。
朝廷も将軍も頼れない執権の政治力。
北条得宗家の中興の祖(というより絶頂期。これ以降は鎌倉幕府は衰退)。

前田利家や、山内一豊や、江から見える、信長・秀吉・家康。

そして、鎌倉や室町の政権に都合のいい平氏・清盛悪人像が、どうにも気に入らないので、これを破壊して正常化して欲しいものだ。
また、西行や、梁塵秘抄など、清盛とは関係のないところで親しんだ日本文学もからんで、テンションも上がってくる。

これが、『平清盛』を見るべき2つ目の理由。

3.勧善懲悪や予定調和ではなく:通説の否定

一般大衆に広く知られたヒーローは、正しいのか間違っているのか、NHKとしても人物イメージを損なうことはできないだろう。
忠臣蔵で吉良上野介を善、浅野内匠頭や大石内蔵助を悪とは描くことはできないだろう。

しかし、たとえば足利尊氏は、大日本帝国の非国民代表だったわけで、終戦なくしては陽の当たらない偉人のままだっただろう。
後醍醐天皇の親政は貴族偏重に過ぎ、もう一回、武士による政権樹立を成し遂げる話がよく理解できた。つまり、平安時代のデジャビュはもうたくさん、ということだ。

功名が辻の土佐藩は、龍馬伝で坂本龍馬が脱藩した土佐藩である。

そして、江の太平祈願。
これは、最後に…

とにかく、今回は悪人の代表と嫌われている平清盛だけに、NHKの腕の見せ所である。

『平清盛』を見るべき3つ目の理由が、これだ。

4.NHKのメッセージ:今の世を変える

勝手な受け取り方だが、
国内派・守旧派は悪、国際派・改革派は善。
という感じが背景に見え隠れする。

NHKは、古代史ドラマスペシャルなるものを制作していて、次の三部作。

  1. 聖徳太子
  2. 大化改新
  3. 大仏開眼

朝敵あつかいの蘇我氏も、血みどろの権力闘争に明け暮れ、ブッシュ・ジュニアのように好戦的ではあるものの、国際感覚があって、輸入宗教の仏教にも理解がある。
という描き方をしている。

大仏開眼では、遣唐使を経験した吉備真備が主人公で、朝敵となった藤原仲麻呂を、中国で学んだ兵法で討ち滅ぼしている。

TPP反対とは言わないであろう人が、正しいという描き方か(笑)

清盛も、純粋な国際派、開明派かどうかは、断言できないが、
宋との貿易、貨幣経済、迷信と信仰の区別など、当時のエスタブリッシュメントとしてはずば抜けていたと思われる。
福原では、後白河法皇に宋人を引き合わせている。(奇矯な二人ならではのエピソード)

これが、『平清盛』を見るべき4つ目の理由だ。

5.成り上がることは既得権を破壊すること:起業家の心得

どこかの評論家かジャーナリストか、平清盛を成り上がり者として、罵詈雑言を浴びせていた。

しかし成り上がりを否定することは、既得権者が、先祖代々、子々孫々、永遠に持てる者であり続けることである。
逆に、貧乏人の家に生まれたら、自分も子供も、日本滅亡まで、貧乏人で我慢しなければならない。

これが、成り上がり否定論の、結論である。
断じて、認めることはできない!

さて、平清盛の成り上がり伝記は、

まずは、源氏を京都から駆逐。
権力周辺の武家は、平氏のみになる。

次に、公家の既得権も奪取。藤原摂関家は、みるみる政治力も経済力も失っていく。
太政大臣を筆頭に、一族で、官位や領地の多くを占有する。

最後は、娘が産んだ天皇を擁立。
福原遷都、そして院政の停止など。
つまりは、王家さえも意のままに…

こうして、武家の頂点に立って、公家を落とし、王家さえも掌中に入れる。

起業家は、清盛の成り上がり伝記に学ぶことも多いはず。

これこそ、『平清盛』を見るべき5つ目の理由である。

6.「遊びをせんとや生まれけむ」とすごろく:不確実性

梁塵秘抄の「遊びをせんとや生まれけむ」と、すごろく。
オープニングにも、唄が流れ、さいころが転がる。

統治能力がなくなっている王家や公家、その親兄弟身内の権力闘争。
つまり持てる者が手放したくないと、お粗末な戦いに耽るばかばかしさ。

真逆には、持たざる者の後白河と清盛(と信西)が、偶然に偶然が重なって、日本史の主役として舞踏する。
つまりすごろく遊びのような、さいころの目次第で覇権のマス目を抜いたり抜かれたり、ゲームをくりひろげる。

日常生活から人生、そして歴史までもが不確実性。

『平清盛』を見るべき6つの理由は、おもしろくない世をおもしろく生きたいからだ。

7.武力が政治力:憲法第九条と軍隊

最後は、信西が、後白河のために考案したことだろうが、武力による政治がはじまったことである。
もはや、陰謀とか毒殺とかではなく、弓矢の軍勢が政敵を取り囲んで討つのである。
死刑も復活した。

軍隊の帰趨が、政権の安定や不安をもたらす。

NHKがそれを描くかどうかは、これから先の話だが、
『江』では、極端に言えば、平和は戦争のあとに実現する。というテーマを感じている。

織田信長の「天下布武」は、家柄や血筋といったものが為政者を決めるのではなく、暴力装置によってアンシャン・レジームを破壊し、政治=軍事によって天下を統一するということである。
夫を殺された妹の市も、あえて天魔とそしられても太平の世をつくる兄信長の覚悟を察知し、「天下布武」の印を受け取る。

そして、市の三女江も、「天下布武」の印をもらい、天下太平を願う。
それに呼応して、夫の徳川秀忠は、戦国時代を終わらせるために、武力によって豊臣一族を滅亡させる。

憲法第九条で、日本国家国民の平和は続くのか。

清盛は、軍事力が政治力であることを示すだろう。
そして、軍事力はまた、平和力でもあるかもしれない。

これが、『平清盛』を見るべき7つ目の理由である。

«
»